アレキサンダー大王は何やったの
一括紹介(その1)〜アレクサンドロス大王を巡って〜
アレクサンドロス大王をめぐって
紀元前334年に海を渡って大国ペルシアに対する戦争を開始し、瞬く間にペルシア帝国を征服、その後インドに まで遠征したアレクサンドロス大王。彼に関して日本語でも読める本から現在でも容易に手に入れられるものを 中心に紹介していきます。
アレクサンドロス大王に関しては同時代に書かれた史料はほとんど残っておらず、現在一次史料として用いられて いるものはローマの時代に書かれた物である。その中でもアレクサンドロスの側近プトレマイオスと遠征に従軍し たアリストブロスを主な典拠としつつ自らの軍事活動の経験をふまえながらまとめたアッリアノスのこの著作は アレクサンドロス大王に関して最も重要な史料としていままで扱われてきた著作である。アレクサンドロスの遠征 に関して知るためには必読の書。なお、本書はもともとは東海大学古典叢書の一つとして、日希対訳・膨大な注釈 つきの「アレクサンドロス東征記」として刊行されていたものが、訳文と必要最低限の注釈のみを納めて文庫化され たものである。より詳しく知りたい方は、現在入手は難しいかもしれないが、東海大学古典叢書のほうを読むとよい と思われる(「アレクサンドロス東征記およびインド誌」東海大学出版会、1996年、39900円)。
大牟田章氏は日本でアレクサンドロス大王に関して多くの研究論文や書籍を書き残した数少ない研究者です。 氏の手による、アレクサンドロス研究の主要史料であるアッリアノス「アレクサンドロス東征記」の全訳と 注釈(東海大学古典叢書、現在訳は岩波文庫でも読める)はアレクサンドロスに関する研究ではまず参照す べきものです(当サイトのアレクサンドロスのコーナーを作るときにも大いに活用させて頂きました)。220 頁ほどの新書サイズの本ですが、その大牟田先生が書いたアレクサンドロス大王の伝記です。ドラゴンはどこからを発信したその内容はかな り充実していて、アレクサンドロス誕生前後のギリシアの情勢からはじまり、アレクサンドロスの少年時代、 フィリッポス2世の死とアレクサンドロスの即位、東征の開始と経過、そしてアレクサンドロスの死にいたる 記述の随所にご自身の見解を盛り込みながら話が進められています(アレクサンドロスの即位に至る経過や、 「パルメニオン体制」等々)。原著は昭和51年に出た本なので、最近の研究の進歩を考えると少し古くなって いる部分もあるかもしれませんが、充分今でも読んで納得できる箇所の方が多いのではないかと思います。 新書サイズでありながら、史料読解に基づいた著者の独自の見解を数多く盛り込みつつ書かれているためかな り詳しく、さらに32年という激しくも短い生涯を駆け抜けた一人の若者の生き様が非常にわかりやすい形で示 されています。
マケドニア王アレクサンドロス3世(大王)については生きているときから半ば伝説と化し、その後様々な人間が彼についての 歴史書を古代世界で書き残しました。しかし彼について書かれたものは古代のみならず中世にも見られ、中世のラテン叙事詩 「アレキサンダー・ロマンス」として中世ヨーロッパで広まっていきます。「アレキサンダー・ロマンス」と比べるとガルテルース ・ド・カスティリオーネ(シャティヨンのゴーティエ)が書き上げた本書は荒唐無稽さの度合いは低く、またクルティウスを典拠に して書かれたことを窺わせる箇所もあり(ダレイオスの逃走中の様子やフィロータス事件など)、その他の古典も色々読んでいた のではないかと思われる箇所や、やはり中世なのでキリスト教的な考え方の影響が出ているのかなと思わせる箇所があったりします。 我々が読む歴史書とはかなり違う本ですが、面白く読める本だと思います。 ただし、注の番号と内容が大幅にずれている項目がある というのは大きな問題です。人名や地名の注が全然違う内容になってしまっているところがあるので、これについては訂正表を作った 方がよいのではないかと思います。
2003年、NHKで「文明の道」と言う番組を放映し、アレクサンドロス大王を扱っていました。番組に出演していた 研究者の一人にピエール・ブリアン氏がいました。アケメネス朝およびアレクサンドロスの時代の中東を専門とされている ためか、アレクサンドロスに関しても邦語で読める著作があります。創元社の本はアレクサンドロスの生涯について、古代 の彫刻やレリーフから中世の写本、近代の絵画など様々な図版を引用しながらまとめ、巻末にはその後の展開や歴史的意義 などについてまとめた項目があります。様々な図版が入っている分叙述は短く完結になっているため、やや詳しさには欠ける 感じがしますが、カラーの図版が多いということでかなりわかりやすくなっています。近年の研究動向、特にペルシア側から 見たアレクサンドロス大王という視点が含まれています。奴隷引用フレデリック·ダグラスの多くの形態があります文庫クセジュの本はアレクサンドロスの遠征の目的や動機、征服に 対する抵抗、征服地の支配、マケドニア人・ギリシア人・イラン人とアレクサンドロスの関係といった個別の事柄により踏み 込んだ内容になっています。創元社の本はどちらかといえば初めてアレクサンドロスについて触れる人向けで、文庫クセジュ の本はアレクサンドロスに関してある程度知識を持っている人が読むとより深く理解できる本だと思います。
アレクサンドロス大王の生涯をたどりながら、そこからリーダーシップや組織運営に関する教訓を導き出していくと言 うスタイルを取ったビジネス書です。アレクサンドロスの生涯をたどる部分と、企業やスポーツチームの話が間に挟み 込まれており、ビジネスに生かせるような様々な教訓を導き出すことを目的とした本なので歴史の本として読むと物足 りないかもしれません。ただし、歴史上の英雄から学ぶと言うスタイルはありだと思いますし(研究とはまた別の物だ とおもいますので)、これで西洋古代史に対する関心が少しでも持ってもらえるなら良いかなとも思います。
アレクサンドロス大王の生涯について、何か斬新な説を展開したり緻密な論証を積み上げた海外の書籍がある一方、 一般向きに読みやすくした読み物も数多くあります。本書もそんな一冊で、海外ででた一般向け著作の邦訳です。 アレクサンドロス大王の生涯を図版や写真を数多く載せながらまとめた一冊ですが、時々誤記や内容の混乱があるの が惜しいところです。インドでさらに東に進もうとするアレクサンドロスをいさめたのはクラテロスではないし、 若いときのアレクサンドロスについての記述にかなり混乱があります。そう言ったミスがなければ良い本なのですが。
日本では大牟田氏以降アレクサンドロス研究を行う人はほとんどいませんでしたが、近年アレクサンドロスに関する著作を 発表している森谷公俊氏の本がこの本です。内容は合戦におけるアレクサンドロスの作戦や行動から軍事指揮官として の彼に迫る部分とアレクサンドロスの東方政策に関する部分からなり、近年の研究動向をふまえて書かれています。また、 氏の他の著作でもみられる叙述のスタイルですが、実際に氏が関連資料をどのように読んでいったのかということを示 しながら話が進められていきます。原始は何を意味する一般書という枠の中で出来るだけ深く個別の研究についてふれていこうとしているため、 もうすこし詳しくつっこんで書いて欲しい部分もあります。特にアレクサンドロスの軍事的才能を考察するのであれば3つ の会戦以外の戦い(攻城戦や山岳地帯の戦闘など)も分析対象とすると良かったと思います。アレクサンドロスについて 伝記などで一通り知っている人が読むと、より詳しくアレクサンドロスの遠征や彼の生きた時代について分かるようになると 思います。
紀元前4世紀後半、ギリシアからインドに至る大征服を成し遂げたアレクサンドロス大王の母オリュンピアスの伝記です。 あれだけの大事業を成し遂げる人物の父親フィリッポス2世は傑物と呼ぶにふさわしい(個人的にはアレクサンドロスより 上だと思う)ですが、その母親もなかなかすさまじい人物です。これだけ強烈な個性を持った母親と父親の息子だけあるな ぁと改めて感心してしまいました。紀元前4世紀後半というギリシア世界が激しく動き始めた時代であったからこそ、これ だけ強烈な個性を持った女性が活躍できる場面が増えたのでしょう。このサイトの、フィリッポス2世の妻に関する記述は この本をもとにまとめています。
紀元前330年、アケメネス朝ペルシアの都ペルセポリスはアレクサンドロス大王に放火されて廃墟と化しました。しかしなぜ彼は ペルセポリスに放火したのでしょうか。古代の文献資料にもアレクサンドロス大王が酩酊した結果放火したとする説がある一方で、 この放火はアレクサンドロス大王が政治的な意図のもとで計画的に放火したとする説があるなど、放火の有様を探る上では様々な 問題があるようです。本書ではペルセポリスの放火事件について、文献資料のみならずペルセポリスの発掘報告書などをもとに ペルセポリスの放火がペルシア人に対する懲罰という結論を出しています。さらに様々な伝承に彩られたアレクサンドロスの実像 に迫る手がかりとして、伝承がどのような過程を経て形成されていったのかということについても検討しています。ペルセポリス 放火事件について、従来の研究動向がどうだったのかをおさえたり、この問題について扱っている史料の性質および史料がどう扱 われるのかと言ったことにも触れています。アレクサンドロス研究の出発点として手許に置いておきたい本です。
アレクサンドロスについて近年の研究成果を盛り込んで書かれた本です。しかしこれは伝記ではなく、アレクサンドロスという一人 の人物を軸に据えながら従来とは違うギリシア史を書こうとした本です。彼の登場以前のギリシアとペルシアの関係についても単なる 対立関係でなく、ギリシアが東方の影響を受けながら発展したことやペルシア文化の流入があったことにも触れています。また彼の 死後の話もいろいろとでてきますが、彼の名が残ったのは後継諸将が王朝を樹立する際に彼の権威や名声を利用していった結果である という指摘は面白いと思います。この本におけるアレクサンドロスの評価はギリシア的価値観(武勲と名誉を求める)を究極まで追求 した人物というものです。
一括紹介その4にもっと詳しく書いてます。
2003年に放映されたNHKスペシャル「文明の道」に連動して出された書籍です。前半部分のアレクサンドロスの生涯をまと めた部分は簡潔な概説といった感じで、その間に様々な執筆者によってかかれたコラムの部分は面白いです。ちなみに森谷 先生はここではペルシアとアレクサンドロスの王権論に関する記事を書いています。また、アレクサンドロスに関連する遺跡 や都市の紹介があり、彼に関係する場所が現在はどうなっているのかを見ることが出来ます。図版も多いので取っつきやすい かと思います。ただし、年代や事項に関しところどころに誤記が目立つので要注意。
2003年4月からNHKスペシャルで「文明の道」という番組をやっています。東西文明の対立と交流を描くというシリーズで、 アレクサンドロス大王からモンゴル帝国までを扱うことになっています。東西文明の両方にまたがる世界帝国の建設を 目指したと言うことでアレクサンドロス大王を取り上げ、その生涯を漫画化した物がこの本です。全体的な話の流れは、 ごくごく一般的なアレクサンドロス大王の伝記と同じ感じで、主人公はアレクサンドロス大王ですが、狂言回しのリュシ マコス(大王死後にマケドニアを支配する)が重要な役割を果たしています(彼が過去を回想する形で話しが進むので・・・)。 絵を描いている人が、現在「機動戦士ガンダム the origin」を描いている安彦良和だということもあり、アレクサンドロス がア*ロ=レイに似ていたりしますが(笑)、物語の最後に出てくるミエザの学問所跡での回想シーンではちょっと感傷 に浸ってしまった・・・。2008年に「完全版」としてアレクサンドロス即位前の状況をかなり加筆したヴァージョンがでています。内容はだいたい おなじですが、即位前のごたごたを描いていたり、ちょっと頁が追加されています。
アレクサンドロス大王に関する書籍というとどうしても日本で研究している人が少ないせいか海外の研究をまとめたような文献、海外の 書籍の邦訳がおおくなりがちです。「海外」の文献でも英米仏独といった西欧、アメリカの研究書については現在は入手しようと思えば手に 入れやすくなっていますが、海外の研究というとどうしても西欧・アメリカの研究とほぼイコールになってしまうようなところもあります。 しかし実際のアレクサンドロス大王の東征ルートは現在の中東や旧ソ連の中央アジア地域、パキスタンにまで達するものであり、現地での 発掘の成果は語学の問題もありますし、場所が場所だけに(政情不安や内戦などがある地域なので)なかなか日本の一般人の目に触れること もないように思われます。それだからこそ、現在のウズベキスタン(昔のバクトリアやソグディアナのあったところ)の遺跡を長年調査して きた著者の手になるこの本は大いに役に立つことでしょう。アレクサンドロスのバクトリアやソグディアナでの遠征ルートがどのような物で あったのかということについて、バクトリアの大都市アオルノスの位置、オクソス川の渡河ポイント、ギリシア系住民が住んでいたとされる ブランキダイの町や敵対していたベッソスの捕獲場所、アレクサンドロスと一戦交えた各地の砦の特定を長年の考古学調査、現地の実地検分 と地形データの集積、文献史料の記述、地名の語源などををもとにして特定していき、そこからアレクサンドロスの遠征ルートが復元されて いくところがこの本の中で特に注目すべき箇所でしょう。アレクサンドロスの東征以前からこの地域は集落や都市があり繁栄していたこと、 また地域によっては東征以後集落の存在があまり見られなくなり、人がほとんど住まなくなってしまった地域があったことが明らかになるなど、 アレクサンドロスの遠征について考古学が果たす役割はかなり大きいものであると言うことがよくわかるとおもいます。またアメリカや西欧の 研究だけでなく旧ソ連圏や中央アジア方面のロシア語圏の研究にも目配りしていくことが必要だと言うことを痛感させられる本でもあります。
映画「アレキサンダー」においてヒストリカルアドバイザー兼ヘタイロイ騎兵のひとりをつとめたロビン・レイン・フォックス氏が いまから30年以上前に書いたアレクサンドロス大王に関する書物です。原著はペンギン・ペーパーバックスにも入っていて現在も 販売されている本ですが、それを邦訳にすると上下2巻、合計1000頁にもなる大著になっています。アレクサンドロスについての 伝記というよりも、アレクサンドロスに関する様々な資料をつきあわせつつ、彼自身がこうだとおもうことをあれこれ考えながら 書いている本だと思います。アレクサンドロスに関して同時代資料がほとんど無く、あるのは後世に残された物ばかりという状況の なかでアレクサンドロス大王の実像について迫ろうとする本ですが、専門的な研究書ほど堅実に論証を積み重ねているという感じでは なくかなり読みやすい本になっていると思います。
(追記)「週刊100人」のなかにアレクサンドロス大王を扱った巻がありますが、正直なところあまりおすすめできない 一冊です。色々とつっこみたい箇所があるのですが、きりがありません。とりあえずメムノンが死んだ後もペルシア艦隊 は活発な活動を見せている(むしろメムノンノ時より活発)、ガウガメラの戦いの時の中央部の隙間は作戦で生じさせた ものではなく、交戦の過程でできてしまった隙である等々の指摘はしておきたいところです。
あと、オスプレイ社の「アレクサンドロス大王の軍隊」についてはあまりお薦めはしません(英語が読めるなら同じオスプレイ 社の本 Macedonian Warriorを読むとマケドニアの歩兵については良くわかります(執筆はHeckelさんです))。どの辺がまずいのかと言われると、 マケドニア密集歩兵が大きな盾を使っていると書いているので、イラストにでてくるマケドニア密集歩兵の絵はすべて都市の 攻撃とかの最中で盾と剣で戦っている場面ばかりになってしまっていて、これでは普通の重装歩兵とどう違うのか分からなく なっているところですね(なお、マケドニア密集歩兵の装束の問題についてはアメリカのAmazonでも指摘されてました)。 そのような事態を招いている原因としては、「アレクサンドロスの石棺」の浮彫のデザインをそのまま使っている(としか言い 様がない構図がある)せいでしょう。
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